Complete text -- "わかったつもり 読解力がつかない本当の原因"

17 December

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因

ブックレビュー再び。

タイトルが面白いのでアマゾンで衝動買い。
わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
光文社新書
西林 克彦 (著)
読んでみたら国語教育系の本だった。
しかし、すべてのコミュニケーションにおいて応用できるのではないかと思った。

認知心理学をふまえながら、文章を読んで理解することには「わかる」「わからない」の他に「わかったつもり」という段階があり、それがより深い理解・読解のさまたげになっていると語る。
理解力・読解力を磨くには、「わからない」ことよりも、「わかったつもり」でいることの方が問題が大きいという。

例を示しながら読者に、自分が「わかったつもり」の状態になってもらい、その後例文から読み取れるもっと多くの情報を提示し、いかにいい加減に読んでいるかを実感してもらう。

非常に理論的で面白い本。

大学入試における現代文の客観式設問の難点やその運用の難しさ等にも触れ、なぜ現代文が難しいのかをもあざやかに分析してみせる。

ちょうどこれを読んでいるときにマンガ・モーニングで連載中の東大受験マンガ「ドラゴン桜」がこの本を引用していて非常に興味深かった。(2006年2号、3・4合併号)

「わかったつもり」というのは、この場合ある状態を示す造語。
後から考えて不充分だというわかり方を「わかったつもり」と呼んでいるだけで、いわゆる知ったかぶるというような状況のことではない。

で、この「わかったつもり」の状態は、「わからない部分が見つからない」という意味で安定している。
もし「わからない」のなら、すぐにその「わからない」点について情報を集めようとするはずだが、「わからない部分が見つからない」ので、その先を探索しようとしない。

これが「読む」という行為の中で発生すると、その読解、つまり深い理解の障害となりうるというのだ。

これは「読む」に限らず、すべてのコミュニケーションでいえることだろう。

話を一生懸命聞いている人は質問も多くなりがちである。
しかし、いい加減に聞いている人は「へえ」とか「はあ」とかの相槌で終わりである。
「へえ、そうなんだ」なんてもっとも無責任なリアクションで、明白な矛盾があってもそのままスルーしてしまう。
もし自分で考えながら話を聞いていれば「おかしいな」と思うようなことを納得して聞いてしまうのである。

書面など渡されて、大きい文字だけ拾い読みして「わかったつもり」になっていると、よく読んだら違うことが書いてあった、なんていうのもこの一種で、大きい文字だけ読んだ時点でもう疑問なく安定してしまうのである。

それがもし情報量の少ない、本来なら「わからない」状態になってもおかしくない状態であっても、脳は欠けてしまったパズルのピースを色々な思い込みやこれまでの経験から導き出してしまうという。
脳はそれを安定させるために矛盾をなくして理解しようとしてしまうらしい。
なるほど、早とちりの多い人はごく一部のキーワードだけで全体を勘違いして理解していることも多いが、そういうことであろう。

ともあれ、自分のような理屈教の信者の人々にはお勧めしたい本である。

ところで、面白かったのが「ドラゴン桜」にも引用された以下の文章である。
この文は一見しても何のことだかわからないが、あるものについて語った文である。
そのあるものが何なのかわかれば難なく読めるのだが、逆にここから導き出すのは意外と大変な作業である。

新聞の方が雑誌よりいい。街中より海岸の方が場所としていい。最初は歩くより走る方がいい。何度もトライしなくてはならないだろう。ちょっとしたコツがいるが、つかむのは易しい。小さな子供でも楽しめる。一度成功すると面倒は少ない。鳥が近づきすぎることはめったにない。ただ、雨はすぐしみ込む。多すぎる人がこれをいっせいにやると面倒が起きうる。ひとつについてかなりのスペースがいる。面倒がなければ、のどかなものである。石はアンカーがわりに使える。ゆるんでものがとれたりすると、それで終わりである。

たった一つのキーワードで、この文の疑問やもやもやがパーッと雲散霧消するさまは痛快である。

答えは以下の[Read more of this post]以降に示すので、何度かよく読んでからクリックされたい。

答えは「凧」である。

凧の素材、上げる場所、揚げ方等について淡々と語っているだけなのだが、頭上に「?」マークが散乱したことであろう。
このような認知心理学的なアプローチも楽しい、頭のストレッチング的な楽しみ方のできる本であった。
00:00:00 | victor | | TrackBacks
Comments

くけ wrote:

凧!思い浮かんだよ!ヤッター!
でも、「かなりのスペースがいる」あたりで凧かなあ?と思ってから、読み直して新聞がいいってどういうことかな?と迷いました。
新聞で凧を作れということですか?(^^;)
12/17/05 15:23:04

victor wrote:

はい、雑誌よりは新聞紙の方が凧の製作に向いているということのようです。

ちなみに自分は「わけがわからない」ということが答ではないかとかんぐりました。
心がすさんでいますね。
12/19/05 12:11:33
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