Complete text -- "絆創膏まで"

31 August

絆創膏まで

http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/katei/news/20060920ddm013100156000c.html

「ねえ、リバテープ持ってる?」。そう口にして、友人や同僚に妙な顔をされた経験がある。私は福岡県出身。「リバテープ」は九州を中心に流通するガーゼつき救急ばんそうこうの商標名だ。地元では通じるが、よその皆さんには通じなかった。実は、それを何と呼ぶか、で出身地が分かる物は少なくない。あなたは「ばんそうこう」何と呼ぶ?【銅山智子】

 ◇広く浸透バンドエイド−−リバテープ熊本/カットバン佐賀/サビオ北海道

 ★これも方言

 ばんそうこうは、各地で「バンドエイド」「カットバン」「サビオ」など商標名で呼ばれていることが多く、どう呼ぶかで出身地が推測できる。

 東京女子大の篠崎晃一教授(社会言語学)は、呼び方の地域的なバリエーションを「方言」ととらえ、約10年前に全国調査した。どの地域でも一般名称である「ばんそうこう」のほかに、複数の呼び方が存在している。篠崎教授の調査を参考に、その都道府県で一番ポピュラーと思われる呼び名の分布をまとめたのが別図だ。

 広く浸透しているのは、現在43%の市場シェアを誇るジョンソン・エンド・ジョンソンの「バンドエイド」だ。篠崎教授の調査時点で、全国でテレビCMをしていたのは「バンドエイド」だけだった。日本上陸は59(昭和34)年。メディアの影響力も後押しして、最も有名なブランドになったといえる。

 ★地方発

 「リバテープ」は60(同35)年に星子旭光堂(現リバテープ製薬)が発売。創業のルーツが西南戦争という、熊本県のしにせメーカーだ。「熊本での認知度はほぼ100%。九州の人なら一度は聞いたことがあるはず」と同社総務部。九州では、ほかに「カットバン」の知名度も高い。命名の由来は「ばんそうこうをカットしたもの」だから。佐賀県に本社のある祐徳薬品工業の商品だ。

 北海道での呼び名「サビオ」は、もともとスウェーデンの有名メーカーの商品。日本では63(同38)年からニチバン、75(同50)年以降はライオンがライセンス契約を結び、販売していた。「20年ほど前は、北海道でシェア1位だった」(ライオン広報部)が、02(平成14)年に製造が中止されている。商品は消えたのに、商標名が一般名詞として使われ続ける珍しい例だ。

 篠崎教授は「現代になって新しくできたものの場合、ホチキス、サランラップ、宅急便などのように、特定のブランド名が一般名称のように定着する例はある。ばんそうこうは、複数の商標名が定着しているうえ、地域的な特徴も大きい」。かなりユニークな存在といえそうだ。

 ◇省略の仕方も違う−−マック・マクド/でる単・しけ単

 ★東と西

 大きく分けて、関東と関西、東日本と西日本で呼び方が違う物も少なくない。

 例えば「赤ちゃんの夜泣き薬」。東では「宇津救命丸」だが、西では「樋屋奇応丸(ひやきおうがん)」。どちらも商標名だが、代名詞化している。

 一般名詞では▽画びょうと押しピン▽お漬物とお新香▽お汁粉とぜんざい▽今川焼と回転焼(ほかに大判焼、二重焼などの呼び名もあり)−−などだ。

 また、省略の仕方が東西で違う例も。ファストフードの「マクドナルド」は関東は「マック」、関西は「マクド」。約1500万部のロングセラー「試験に出る英単語」は東日本では「でる単」、西日本では「しけ単」が主流だ。

 日本マクドナルド広報部は「なぜ2種類の省略があるのか、どこが東西の境か。よく質問されるが、諸説あって正直よくわからない。会社側からは省略形で呼んだことはなく、どちらもお客様がつけてくれた『愛称』なので、ありがたいことです」と話す。

 ◇黒板消しをラーフル−−鹿児島

 ★局地的

 さらに「局地的」に特殊な呼び方をする物もある。

 例えば、中部・近畿ではコーヒーに入れるミルクを「フレッシュ」と呼び、関西では一部年配男性がアイスコーヒーを「レーコー」と言う。「おねえちゃん、このレーコー、フレッシュついてへんで」という具合だ。鶏肉を「かしわ」と言うのは近畿、九州など。

 鹿児島では黒板消しを「ラーフル」と言い、出身者の生活家庭部デスクは「大学で上京するまで、外来の標準語だと思っていた」と話した。

(明日は「年代編」)


年代編 言葉に映る時代と価値観
ぼたもち・おはぎ:同じ菓子 異なる名前 なぜだろう
毎日新聞 2006年9月20日 東京朝刊

ぼたもち・おはぎ:同じ菓子 異なる名前 なぜだろう
 お彼岸の定番の和菓子といえば「おはぎ」。もち米やうるち米に小豆あんや黄な粉などをまぶしたものだが、同じものを「ぼたもち」とも呼んでいる。春のお彼岸は牡丹(ぼたん)の花に見立てて「ぼたもち」、秋は萩(はぎ)の花になぞらえて「おはぎ」というのが通説になっているようだ。同じ菓子なのに異なる名称がつけられているのはなぜなのだろうか。【澤晴夫】

 ◇春に豊穣祈願、秋は収穫感謝

 「ぼたもち」「おはぎ」は、もともとは春の豊穣(ほうじょう)祈願、秋の収穫を感謝して神にささげる食べ物だったようで、民間で行われていた風習だったこともあり、地域などによって、さまざまな呼び名があったようだ。

 ◇季節の花「牡丹」と「萩」一般的

 最もポピュラーな説が季節の花から「牡丹餅」と「お萩」だが、このほかには、どんな由来があるのだろうか。

 <小豆あん・黄な粉の区別>小豆あんをつけたものが「ぼたもち」、黄な粉をまぶしたものが「おはぎ」。

 <あんの状態で区別>こしあんをつけたものが「ぼたもち」、つぶあんが「おはぎ」。

 <米の状態で区別>あんをまぶす米の状態で区別し、もちにまでついたものが「ぼたもち」、ついた米のつぶが残ったものが「おはぎ」。

 <大きさで区別>形の大きさからという説は丸くて大きいものが「ぼたもち」、小ぶりで長めに作られたものが「おはぎ」。

 <くず米説>精米する時にワラくず交じりのコメを「ボタ」と呼んだことから、くず米を使ったものが「ぼたもち」。

 <仏典説>仏典に用いられたパーリ語の「ブタ」(「飯」の意)が「ぼた」になり、「ぼたもち」になった。

 ◇おはぎ「女官言葉が江戸時代に定着」

 諸説ある中で、和菓子の歴史に詳しい「虎屋文庫」(東京都港区)の研究主幹、青木直己さんは「もともとはぼたもちだったのを、宮廷の女官たちが『おはぎ』と言うようになり、女房言葉の『おはぎ』を庶民も使うようになったのでは」と話し、女房言葉では、ぼたもちを「やわやわ」と言うこともあるという。「おはぎと言うようになったのは江戸時代からでしょう」と青木さん。「棚からぼたもち」ということわざもあるように、ぼたもちは庶民が使った名称のようだ。

 食文化史研究家の永山久夫さんも「ぼてっとした形から『ぼたもち』になったのだと思う」と話す。

 江戸時代中期以降、庶民も砂糖が使えるようになり、甘いぼたもちが登場。庶民が家庭で作る以外に、商品としても作られ、ぼたもちよりも上品な言葉として「おはぎ」の名が広まったのだろうとみる。

 永山さんは「季節の花にちなんで『牡丹餅』など、さまざまな説があるが、こじつけの説も多いようだ。ただ、昔は年中食べられるものではなかったから、魅力的で、あこがれの食べ物だったのでしょう」とも話す。

 ◇厳しい夏冬を前に、神仏の力…取り込み図る?

 では、なぜお彼岸に「おはぎ」や「ぼたもち」を食べるようになったのだろうか。

 永山さんは「お彼岸は季節の変わり目。厳しい夏や冬を迎えようとする時期で、小豆が健康にいいということを経験的に知っていたのでしょう」と話す。

 小豆の赤はおめでたい色で、邪気をはらう色としても信じられていた。先祖供養の他、神仏に供え、御下(おさ)がりを食して、「神仏の力を体の中に取り込みたい」と願う意味もあったのだろうと永山さんはみている。

毎日新聞 2006年9月20日 東京朝刊
呼び名で分かる:/年代編 言葉に映る時代と価値観
 「今日はパンツをはいてくれば良かった」と聞いてギョッとする方は、もしかして1970年以前の生まれでは? 一昔前、パンツと言えば下着のことだったが、今は表着(うわぎ)の意味でも使われる。物の呼び方は時代で変わるため、最初にそれを何と呼んだかは、年齢によっても違うのだ。【大迫麻記子】

 ★アパレル用語

 ◇ジーパン登場で「パンツ」に表着の意味/メキシコ五輪で広まった「スニーカー」

 まずは、移り変わりが激しいアパレル(衣料・既製服業界)用語から。

 「アパレル言葉の転換期は、60年代でした」と話すのは、「ファッション/アパレル辞典」(繊研新聞社)の著者、小川龍夫さん(75)。

 「パンツ」がズボンなど表着の意味を含むようになった理由を、小川さんは「60年代に登場したジーパンすなわちジーンズパンツの影響」と見る。「ジーパンの広がりで、『パンツ』は表着も含むようになった」

 運動靴の「ズック」と「スニーカー」も同様。

 「一昔前、運動靴と言えばズックだったが、今は死語になりかけている」と小川さん。代わって台頭した言葉がスニーカー。きっかけは「68年のメキシコ五輪」という。同五輪で、色鮮やかで斜めに縫い込みを入れるような、デザイン性の高い運動靴が登場。スニーカーという呼び名と共に広まり、運動靴全体を示すようになったという。

 このほか、衣類系では「チョッキ」と「ベスト」▽「バンド」と「ベルト」▽「チャック」と「ファスナー」▽「ジャンパー」と「ブルゾン」▽「トレーナー」と「スエット」−−などがある。このうち「トレーナー」はVANの創業者、故・石津謙介さんの造語で、80年代までは主流だったが、最近は「スエット(シャツ)」の方が一般的になっている。

 ★天花粉

 ◇使い慣れた商品名も影響

 暑い季節に汗やあせも予防に使う白い粉。かつては「天花粉」や「シッカロール」と呼んだが、今は「ベビーパウダー」が主流だ。

 「統計はないが、確かに天花粉、シッカロールという言葉は、比較的年配の方が使うようです」と、ベビー用品メーカー、和光堂の担当者。シッカロールは同社の商標で、1906年に発売。鉱物のタルクなどが原料で、ラテン語で「乾かす」という意の「シッカチオ」から名付けられた。

 一方、天花粉の主原料はウリ科のキカラスウリの根で、成分から違う。同社によると、1703年に書かれた「小児必用養育草」という書物に記載があり、歴史は古い。

 製品名に一般名詞の「ベビーパウダー」を使っているジョンソン・エンド・ジョンソンによると、ベビーパウダーは1890年に同社が世界で初めて発売。ただ、日本に入ってきたのは戦後の1958年だった。同社は「言葉には、子どものころ使っていた商品の影響があるはず。『ベビーパウダー』と呼ぶのは、60年以降に生まれた方が多いのでは」と分析する。

 ★変わるイメージ

 料理の呼び方も、時代で変わる。

 例えば「スパゲティ」。ナポリタンとミートソースくら「しかなかった時代はこれで良かったが、イタリア料理が普及すると共に、フィットチーネやラビオリなどさまざまな「パスタ」が現れ、スパゲティよりも、練った小麦粉製品の総称であるパスタが一般的になりつつある。

 また、「いり卵」や「ビフテキ」もいつしか「スクランブルエッグ」や「ステーキ」が一般的になった。いり卵はご飯のおかずのイメージだが、スクランブルエッグはパン食の感じ。年配者にとって、ビフテキには特別なごちそうのイメージがあるようだ。

 神戸大の窪薗晴夫教授(言語学)は「新語は、言葉の意味を軽くしたり新鮮な感じを出すため、あるいは含有する概念を広める場合に登場する」という。物の呼び方は、その人が育った時代背景や価値観も映し出すのだ。=おわり<イラスト・清田万作>


09:33:00 | victor | | TrackBacks
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